モルタルを使った建設用3Dプリンターの可能性。工期短縮、高い造形自由度、廃棄物・二酸化炭素排出削減という3つの特徴を活かす~コンクリート業界の脱炭素化(後編)

INTERVIEW

會澤高圧コンクリート株式会社
代表取締役社長 會澤 祥弘
執行役員 東 大智

コンクリート業界の脱炭素化の取り組みを紹介する本連載。建設用3Dプリンターは、建設分野で用いられる3Dデータをもとにロボットが自動で立体形状を造形する3D構造物の製造装置ですが、世界でこの建設用3Dプリンターが注目される理由をご存じでしょうか?

注目される理由として、工期短縮、高い造形自由度、廃棄物・二酸化炭素排出削減という3つの特徴が知られており、これから同市場が広がる可能性は大きいと言えます。日本も2018年に官民連携組織「3Dプリンティングによるコンクリート構造物構築に関する研究委員会」が発足し、少しずつ3Dプリンターを建設分野に導入する取り組みが進んでいます。

そうしたなか、日本でいち早く海外から建設用3Dプリンターを導入し、事業着手したのが會澤高圧コンクリートです。會澤高圧コンクリートではオランダのスタートアップ「CyBe Construction(サイビ・コンストラクション)」が開発した建設用3Dプリンターを2018年に導入しました。後編では、前編に引き続き會澤高圧コンクリートの建設用3Dプリンター部門執行役員の執行役員の東大智(あずま・たいち)氏に建設用3Dプリンターの特徴や導入事例を紹介して頂くともに、代表取締役社長の會澤祥弘(あいざわ・よしひろ)氏にコンクリート業界の脱炭素化に向けた提言をお伺いします。

建設用3Dプリンターとは、建設分野で用いられる3Dデータをもとにロボットが自動で立体形状を造形する3D構造物の製造装置

建設用3Dプリンターは、建設分野で用いられる3Dデータをもとにロボットが自動で立体形状を造形する3D構造物の製造装置であり、世界中にて様々な取り組みが行われています。

例えば、米テキサス州オースティンにあるICON社は、2021年3月に米国初となる建設用3Dプリンターで建設した家を発売し、即売。さらに現在、世界最大級となる100棟からなる3Dプリント住宅街の建設を進めています。1棟の建設にかかる時間はおよそ1週間とのこと。同社が保有するバルカンという3Dプリンティングシステムでは、最大3,000平方フィート(279m2)の建物を建築することができるそうです。

また、日本を含めて世界60か国以上に支社を構える建設会社・PERIは、ドイツ西部に位置する都市ベックムで、同国初となる建設用3Dプリンターによる住宅建設に着手したと発表しています。すでにアメリカやオランダ、ドイツ、フランスのほか、政府が本腰を入れるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などで、建設用3Dプリンターによる住宅の建築が行われています。

會澤高圧コンクリート執行役員の東大智氏
會澤高圧コンクリート執行役員の東大智氏


建設用3Dプリンターの材料として、セメントと砂と水だけを混ぜ合わせたモルタルが使われている

建設用3Dプリンターの材料には、主にモルタルが使われます。セメントと砂と砂利(小石)、そして水を混ぜ合わせたコンクリートに対し、モルタルは砂利を入れず、セメントと砂と水だけを混ぜ合わせたものです。コンクリートに比べ、モルタルは柔軟性が良いというメリットがあります。そうした違いはありますが、建設用3Dプリンターによる建築はコンクリート建築と近いものとイメージして良いと思います。

建設用3Dプリンター3つの特徴は、工期短縮、高い造形自由度、廃棄物・二酸化炭素排出削減

建設用3Dプリンターの特徴について、従来のコンクリート建築を行うケースと比較してみましょう。

建設用3Dプリンターの特徴①:工期を短縮することができる

建設用3Dプリンターの1つ目の特徴は、工期を短縮することができる点です。まずは、コンクリートの固化に関して見ていきましょう。

鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の建築で最も普及している工法は、コンクリート流し込み工法です。まず、コンクリートの骨格となる鉄筋や鉄骨を組み立てます。現場で鉄筋を格子状に組むことを配筋と言います。そして、配筋がすんだら、この骨格を取り囲むように、型枠を作ります。型枠にはコンクリートパネル(コンパネ)と呼ばれる木の合板などを使います。重い生コンクリートの圧力に耐えるために、型枠は多くの留め具でしっかりと固定しなければなりません。型枠が出来上がったら、その中に泥にちかい状態の生コンクリートを上から流し込みます。そして、水とセメントが化学反応(水和反応)を起こしてコンクリートがしっかりと固まるまで、外気温が20℃以上の場合で4日以上、それより低い場合は6日以上、待ちます。固まったら、型枠を取り外してコンクリートの壁が完成します。

配筋と、型枠の組み立て、生コンクリートの流し込みは、それぞれに専門の職人が行います。それぞれに高い技術のいる仕事です。RC住宅が木造住宅よりも価格が高く、建設期間が長いのは、原材料よりもむしろ、職人の手間と時間がかかるためです。

それに対して、建設用3Dプリンターによる建築では、ロボットアームのノズルから、ケーキの上に乗せるホイップクリームのように、モルタルを抽出しながら造形物を作っていきます。抽出したモルタルはすぐにその場で固まっていくので、1層1層、積み重ねて造形していくことができます。ですから、前述した工程が大幅に削減されます。

更に建設用3Dプリンターによる建造物の製作方法でも、工期が短縮することができる特徴があります。建設用3Dプリンターでは、壁の外周に当たる部分をまず製作します。その後、その内側に格子状に組んだ鉄筋を挿入し、生コンリートを流し込みます。生コンクリートはモルタルの壁の中で時間とともに硬化していきます。

この建設方法によって、従来のコンクリート建築に比べ、工程を大幅に減らすことができます。現場で型枠を組み立てる工程、型枠を取り外す工程が一切必要なくなります。一般的に住宅では型枠工事に1階ごとに2週間程度かかるため、これがなくなることはコストにも大きな影響を及ぼします。それに加え、生コンクリートが硬化する時間(およそ1週間)を待つ必要がありません。モルタル壁に強度があるため、モルタルの中に生コンクリートを流し入れたらすぐに内装工事や天井の施工に取り掛かることができるためです。

建設用3Dプリンターの特徴②:造形の自由度が高いだけでなく、強度は高強度コンクリートと同等

建設用3Dプリンターの2つ目の特徴は、造形の自由度が高いという点です。

建設用3Dプリンターでは、従来のコンクリート造工法では難しい形状が施工できる
建設用3Dプリンターでは、従来のコンクリート造工法では難しい形状が施工できる


「従来のコンクリート建築は型枠で形作れるものしか造形できないため、形状は基本的に直方体に限られてきます。曲面のある形状も作れないことはないのですが、曲面形状の型枠を作るのにはかなりのコストと時間がかかります。その点、建設用3Dプリンターであれば、曲面を取り入れた多様な形状のものが短時間につくれます」(東氏)

會澤高圧コンクリートが導入した、CyBe Constructionの建設用3Dプリンターは、3次元データに基づいて、ロボットアームの先に取り付けたノズルから、「サイビ・モルタル」という特殊モルタルを毎秒600mmの速度で吹き出しながら構造物を造形します。層の高さは12.5mmから20mmまで選択できます。建設用3Dプリンターの下にはクローラー(キャタピラ)がついており、自走することが可能。サイビ・モルタルの1日後の圧縮強度は20N/mm2、7日強度は40N/mm2となっており、高強度コンクリートと同等のレベルとのことです。


CyBe Constructionの建設用3Dプリンターはロボットアームからモルタルを吐出する
CyBe Constructionの建設用3Dプリンターはロボットアームからモルタルを吐出する


建設用3Dプリンターの特徴③:廃棄物と二酸化炭素排出を減らすことができる

建設用3Dプリンターの3つ目の特徴は、廃棄物と二酸化炭素排出を減らすことができる点です。

コンクリートパネルは数回しか使うことができず、ほとんどの場合は一棟の建築で使い捨てとなります。そのため、大量の廃棄物が発生します。一方、建設用3Dプリンターでは型枠の廃棄物が発生しません。

モルタルやコンクリートの原材料となるセメントは製造時に大量のCO2を発生させます。しかしサイビ・モルタルは通常のモルタルに比べて製造時のCO2排出量が最大で32%少ないとCyBe Constructionは公表しています。CyBe Constructionは原材料の輸送にかかるエネルギーとコストを削減することを掲げ、サイビ・モルタルを販売するのではなく、パートナー企業に対して現地でのライセンス生産を促しています。會澤高圧コンクリートはこのパートナーシップを締結しています。

建設用3Dプリンターはセメント量の削減にも貢献します。従来の鉄筋コンクリート造では不可能な形状でも施工可能であるため、コンクリートの量を必要最低限に止めることができるのです。


コンクリート業界の脱炭素化に向けた提言。コンクリートもテクノロジーとの掛け合わせで超ハイテクのスマートマテリアルへの変換を

建設用3Dプリンターで建設した屋外トイレ(提供:會澤高圧コンクリート)
建設用3Dプリンターで建設した屋外トイレ(提供:會澤高圧コンクリート)


會澤高圧コンクリートが試作として3Dプリンターで2020年9月に建設した2基の公衆トイレは現在、北海道深川市にある同社の深川工場で従業員用トイレとして利用されています。

それ以降は問い合わせが増えており、最近では競走馬の聖地として名高い北海道の新冠町にある「太陽の森 ディマシオ美術館」の土地を活用し、3つのグランピング施設を建設中です。

ひび割れを自ら修復する自己治癒コンクリート「バシリスク」、3Dプリンターを活用した建築──これらを通じて、會澤高圧コンクリートが目指すのは温室効果ガスのサプライチェーン排出量を実質ゼロにすることです。

同社は創業100年を迎える2035年までに、温室効果ガスのサプライチェーン排出量を実質ゼロにする『NET ZERO 2035』をコミットメントしました。

また「期限付きネットゼロ運動」の環をコンクリート業界に拡げていくため、會澤高圧コンクリートが保有する素材系の脱炭素化技術やブロックチェーンを使った温室効果ガスの排出量管理といった独自の取り組みを、希望する同業他社に対して包括的に技術移転するプログラム「aNET ZEROイニシアティブ」も始動させました。2023年3月末までに、プレキャストコンクリートメーカー50社、レディミクストコンクリートメーカー50社をパートナーに選び、技術提携を進めていくとのことです。


會澤高圧コンクリート代表取締役社長 會澤祥弘氏
會澤高圧コンクリート代表取締役社長 會澤祥弘氏


「脱炭素は1社ではなく、サプライチェーン全体、スコープ3まで含め実施していかなければ意味がありません。テクノロジーを自分たちだけで抱えるのではなく、できるだけ早く技術移転を進め、当社と同様に期限付きネットゼロに取り組む仲間を増やすことが重要です」(會澤氏)

従来のコンクリート構造物を定期的かつ大規模にリニューアルする20世紀モデルから、コンクリートとテクノロジーを掛け合わせたスマートマテリアルカンパニーへの転換を図っている會澤高圧コンクリート。最後に會澤氏はこう語りました。

「脱炭素社会において、悪者にされがちなコンクリートもテクノロジーと掛け合わせれば、超ハイテクのスマートマテリアルになるんです。テクノロジーを使ってコンクリートを循環経済の欠かせない材料に進化させていく。弊社の創業者は『コンクリート以外のことをやるな』という家訓を残しています。コンクリートしかやらないのであれば、とにかく深くいくしかありません。創業以来、続けてきたコンクリートの起点はブレることなく、今後も新しい価値を生み出し続ける会社でありたいと思います」(會澤氏)



文/新國翔大
撮影/嶺竜一


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