海洋プラスチックなどの浮遊ごみを回収する水上ドローンとは。世界各地での実証実験の状況を聞く

INTERVIEW

IADYS
創業者 兼 CEO
Nicolas Carlési

海洋プラスチックは、海洋に流入したプラスチックの浮遊ごみやマイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下の微細なプラスチックの総称です。海洋プラスチックが注目される背景として、海上に漂う分解されにくいプラスチックが海の生物に付着したり、体内に取り込まれたりしたことが確認されたため、海の生態系に深刻な影響を及ぼす懸念がクローズアップされました。
SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」においても、目標14を構成する10個のターゲットのひとつ「14.1」にて「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。」が謳われています。

このような状況下において、海洋プラスチックや油などの浮遊ごみを回収するドローンJELLYFISHBOTを開発したフランスのスタートアップIADYS(アイァディーズ)は、これまでに157万ユーロ(約2億円)の資金調達に成功しています。今回は、IADYS創業者でJELLYFISHBOTの開発者であるNicolas Carlési(以下ニコラス)氏に、開発した水上ドローンの概要や世界各地での実証実験の状況についてお伺いしました。

海洋プラスチックも回収可能な水上ドローンJELLYFISHBOT

JELLYFISHBOT(ジェリィフィッシュボット)は、水面から海洋プラスチックなどの浮遊ごみや油を回収できる小型の水上ドローンです。リモコン操作で回収作業を行えるだけでなく、事前に水域をプログラムしておくと自律的に清掃してくれます。2時間充電すれば2~6時間稼働し、スピードは1ノットとなっています(トップスピードは2ノット)。また本体重量は20kgで簡単に持ち運びができ携帯性にも優れています。

JELLYFISHBOTは既にヨーロッパの多数の都市や、米国、オーストラリア、シンガポール、そして日本でも稼働しています。


シチリアの海で目撃した大量の浮遊ごみがJELLYFISHBOT開発のきっかけ

IADYS創業者兼CEOのNicolas Carlési氏(提供:IADYS)
IADYS創業者兼CEOのNicolas Carlési氏(提供:IADYS)


──── JELLYFISHBOTの開発はどのように始まったのですか?

ニコラス氏:(以下、省略)
私は大学でロボット工学と人工知能の博士号を取得し、複数の水中ビークル(車両)を連携させる研究をしてきました。卒業後はEUROGICIELという会社に入社し、鉄道(SNCF)や高圧電力(EDF)の検査に用いられる複数のドローンを連携させるプロジェクトの技術担当として勤務しました。

学業や仕事と並行し、余暇でヨットやスキューバダイビングなど海でのアクティビティも楽しんできました。ある時、バケーションでシチリア島へ行った際に漁網、プラスチック、ペットボトルなどの大量のごみが海に浮いている光景を目にし、衝撃を受けました。

その時以来、私はロボット工学を活用し海洋ゴミ問題を解決するためのプロジェクトを構想し始めました。2016年、ロボット工学・電子工学・機械工学の専門家たちとチームを組みIADYSを創業したのです。

私たちはまず港やマリーナなど港湾管理者のニーズを把握するための現地調査に取り掛かりました。港やマリーナは海洋プラスチックなどの浮遊ごみが外洋に拡散するのを食い止めるための最後の砦とも言える場所になります。

現地調査の結果、海洋プラスチックなどの浮遊ごみの回収をより簡単で効率的、かつ自律的に行えるソリューションへのニーズがあると分かりました。そこで1人で簡単に持ち運びができ、船と船の間、浮桟橋やつり橋の下など手の届きにくい場所にある浮遊ごみを簡単に集められる水上ドローンを開発することに決定したのです。


海洋プラスチックなどの浮遊ごみの回収には多くの人手と膨大なコストがかかる

港やマリーナに溜まった浮遊ごみを海洋に流れ出す前に回収することが重要
港やマリーナに溜まった浮遊ごみを海洋に流れ出す前に回収することが重要


──── 港において海洋プラスチックなどの浮遊ごみはどの様な問題だと認識されているのでしょうか?

港やマリーナはとりわけ廃棄されたプラスチックなどの浮遊ごみや、油の影響を受けやすいエリアです。都市における最も低い場所に位置しているゆえ、河川や雨や風によってごみが運ばれてきます。それらのごみは直接海洋に投棄されることになります。また船の給油の際に出る油も問題となっています。

海洋プラスチックなどの浮遊ごみは流れや風によって動き、船と船の間、浮桟橋やつり橋の下などに集積していきます。通常、これらの浮遊ごみの回収は手網で行われますが、作業者にとっては極めて面倒な方法です。手の届きにくい、狭い場所を掃除するのには数時間かかり、かかるコストもバカになりません。また油の回収では作業者が直接有害物質に曝されるため、回収も非常に困難なのです。


水上ドローンJELLYFISHBOTはフランス拠点で研究開発から製造、販売、マーケティングまで一気通貫

──── JELLYFISHBOTの開発はどこで、どのように進めたのですか?

私たちIADYSは南フランスのマルセイユに近いロックフォール・ラ・ベドゥールのオーバーニュのビジネスインキュベーターに拠点を構えています。IADYSの強みは研究開発から製造、販売、マーケティングまですべての部門が同じ敷地内にあり隣り合わせで仕事をしていることです。

自社工場も有しており、そこでJELLYFISHBOTの製造やすでに配備されているJELLYFISHBOTのメンテナンスを行っています。運用テストは現地とカシス港で行っています。


──── JELLYFISHBOTの開発で苦労された点はありますか?

最初に突き当たった問題はいかにして小型・軽量・堅牢なドローンの機体を設計するかということでした。JELLYFISHBOTは海上を航行するために防水性があり、塩分によって腐食することなく、高温にも耐えられるものでなければなりませんでした。

また発熱を抑えるための電源管理についても苦労しました。機体の防水性を保ちながらも電池を冷やさなければならないという点に難しさがありました。他に外部アンテナなしで大量のデータ(動画、画像など)を長距離間で送信するのも解決すべき課題の1つでした。

現在は水深調査、水質測定、サンプル採取など新しい機能をいかに小型軽量なロボットに搭載するかが新たな課題として浮上しています。水域の管理・保全に必要なさまざまな課題に対応できるようロボットをモジュール化することに力を入れています。

今後はJELLYFISHBOTをさらに自律的なものにしたいと考えています。移動するボートを避け、汚染を検知し、さらには他のJELLYFISHBOTと協働して作業できるようにしたいのです。海洋ゴミという環境問題に対応するための新たなドローンの使い方を提案したいと考えています。


海洋プラスチックなどの浮遊ごみ回収に関する世界各地での実証実験の状況

JELLYFISHBOTはLiDARを搭載しており自律的に移動して清掃を行う(提供:IADYS)
JELLYFISHBOTはLiDARを搭載しており自律的に移動して清掃を行う(提供:IADYS)


──── JELLYFISHBOTの製品仕様はどのように決められたのですか?

JELLYFISHBOTはさまざまな場所(港湾・マリーナ、産業・作業現場、造船所、ホテル、キャンプ、レジャー・スポーツ施設、研究機関)での使用に対応できるよう、軽量かつコンパクトな仕様にしました。70×70×50cmと小型で重さも20kgと軽く1人で持ち運ぶことができます。

海洋ゴミ回収能力向上のためにも海洋ゴミ、藻、ゴルフボール、花火、塗料カス、油、さらにはマイクロプラスチック(300um以上)などを回収するための多様な種類のネットも提供しています。

またJELLYFISHBOTには水質調査(塩分、水温、濁度、シアノバクテリアや植物プランクトンの濃度など)や水深調査用の各種プローブを搭載することも可能です。


──── 世界各地でJELLYFISHBOTの実証実験が行われていますが成果はいかがですか? 

現在、販売代理店と提携しながら、アジア太平洋地域(日本、シンガポール、オーストラリア、台湾)、西ヨーロッパ(スペイン、ドイツ、スイス、イギリス、フィンランド、ノルウェー、フランス)、ドバイ、米国でデモの実施が進んでいます。

さらに、ヨーロッパ、中東、北アフリカ、ニュージーランド、アメリカ、カナダの代理店との商談が進んでいます。今年度末までに90台のロボットを導入し稼働する見込みです。

日本ではJELLYFISHBOTの販売代理店として平泉洋行とパートナーシップを結んでいます。

日本におけるJELLYFISHBOTの導入拡大に私たちは大きな喜びを感じています。現在までに5台のロボットを販売してきましたが、今後数か月の間にさらに導入先が増えていくと確信しています。


海洋プラスチックなどの浮遊ごみ回収だけでなく、水域のメンテナンスや監視まで

──── 今後の開発計画について教えてください。

今後、水質(塩分、水温、濁度、シアノバクテリアや植物プランクトンの濃度レベルなど)を測定し、水深10mまでの水深調査を行うことができる新しいプローブを提供する予定です。これで水域のメンテナンスや監視が容易になります。

更に大きな進化となるのが動いている障害物を自律的に回避するJELLYFISHBOTの新機能です。
JELLYFISHBOTが完全に自律的にユーザーが決めたエリアを清掃します。LiDARを搭載しており介入エリア内の動く障害物を回避できるようになります。

ロボットの周囲にある動く障害物を検知できるため、特に船舶が行き交うマリーナに適しています。この新機能を搭載したJELLYFISHBOTは2023年前半に発売される予定です。



海洋ゴミの量は依然として増え続けており、エレン・マッカーサー財団が世界経済フォーラムと協力し作成した調査書によると2050年までにプラスチックごみが世界中の魚の重量を超えるとの推定もあります。(参考文献1)

その中で今後、海洋ゴミを回収する取り組みが国家レベルで求められることになるでしょう。それに伴いJELLYFISHBOTのような海洋ゴミを回収する水上ドローンへのニーズが急増することが予測されます。

文/森本信也

▽参考文献
参考文献1:「Industry Agenda – The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics」(世界経済フォーラムホームページ)、 2016年1月

 

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