CO₂フリー水素とは。化石燃料由来のCO₂フリー水素製造・供給・利用の商用化を目指すJ-POWERに実証実験の状況を聞く〜脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用(11)

INTERVIEW

J-POWER
技術開発部 研究推進室 水素タスク
中西 賢氏  千葉 洋

脱炭素社会の実現に向けて「水素エネルギー」の活用に注目し、産学官からの水素エネルギーに関する取り組みを紹介していく本連載。CO2フリー水素は、水素の製造工程でCO2排出を抑えたブルー水素の一種であり、具体的には原料となる水や石炭から複数種類のガスを取り出し(ガス化)、CO2のガスは大気中に放出されないよう分離・回収し、H2のガス精製を行う工程で製造されます。 温室効果ガス(GHG)の排出を全体としてゼロにする、いわゆる“カーボンニュートラル”。日本は2050年までに達成することを目標として掲げています。そんなカーボンニュートラルを達成するにあたって、重要とされているのがCO2フリー水素です。

第11回目は、化石燃料由来のCO2フリー水素製造・供給・利用の商用化を目指す電源開発株式会社(J-POWER)の取り組みに注目します。今回は、同社が進める2つの実証試験、石炭を輸入し国内でCO2フリー水素を製造するプロジェクト、産炭国でCO2フリー水素を製造し日本に輸送するプロジェクトについて、J-POWER技術開発部 研究推進室 水素タスクの中西賢(なかにし・けん)氏と千葉洋(ちば・ひろし)氏にお話を伺いました。

 

CO2フリー水素の製造にJ-POWERが取組む背景

大手電力会社のJ-POWERは、気候変動問題の解決に向けカーボンニュートラルと水素社会実現に向けた取り組みを加速するために、J-POWER“BLUE MISSION 2050”を2021年2月に公表。2050年までに国内発電事業のCO2排出実質ゼロを目指しています。

その目標を実現する手段として、再生可能エネルギーの拡大とならびJ-POWERが注力している1つが「CO2フリー水素」製造です。カーボンニュートラル達成のためには電化を進めることも必要ですが、運輸や製鉄など電化が困難な分野で脱炭素化を進めるためには、大量の水素が必要になります。再生可能エネルギーの電力を活用し、水を電気分解して水素を製造する方法もありますが、地理的制約のある日本において再生可能エネルギーによる水素製造には限界があります。大量かつ安定的に製造するためには化石燃料由来の水素も必要です。

そこでJ-POWERは石炭を輸入して国内でCO2フリー水素を製造、発電利用を目指す「大崎クールジェンプロジェクト」と、産炭国でCO2フリー水素を製造し日本に輸送する「豪州褐炭水素パイロット実証プロジェクト」の双方の実証試験に取り組んでいます。

CO2フリー水素製造の仕組みは、石炭をガス化し、CO2ガスを分離・回収しつつ、H2ガスを精製すること

CO2フリー水素製造の原料として、J-POWERは石炭に注目しています。石炭は主なエネルギー資源の中で最も埋蔵量が豊富で、可採年数は石油、天然ガスの2.5倍以上とも言われています。また、石炭は世界中に偏りなく広く分布していて中東への依存度もゼロであり、貯蔵性も優れているためリスクの小さい資源とも言えます。

こうした特徴を持つ石炭は、エネルギー自給率の低い日本のエネルギー安全保障にとって、欠かすことのできない“重要な存在”です。J-POWERは、石炭が持つ強みを活かしながら、CO2フリー水素の原料として利用を目指しています。「そこで、J-POWERが研究を続けてきた『石炭ガス化技術』と『CO2分離・回収技術』が鍵になります」と千葉氏は言います。J-POWERはこれまで、石炭火力発電のさらなる高効率化・CO2削減を目指し、石炭から水素などの可燃性ガスを作り出す「石炭ガス化」の技術開発に取り組んできました。

石炭に少量の酸素をふき込みながら蒸し焼きにして、一酸化炭素(CO)と水素(H2)を主成分とするガスを生成しています。
こうして製造したガスを用いてガスタービンで発電し、さらにその排熱を利用して蒸気タービン発電を行うという仕組みが、石炭ガス化複合発電(IGCC)と呼ばれるものです。
このガスを水蒸気(H2O)と反応させ、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)に変えた後、CO2吸収剤に通すことで、水素濃度を高めることができます。これがCO2分離・回収技術です。

「IGCCは、蒸気タービンのみで発電するよりも、ガス化した上でまずガスタービンで発電し、排熱を使って蒸気タービン発電を行うことで従来よりも高効率、つまりCO2の削減につながります。さらには、ガスタービンで燃焼させる前に燃料電池も組み合わせたものが、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)です。燃料電池も組み合わせることで、さらに発電の効率を高めることができます。
そして今、これらの技術を応用して、発電だけではなくCO2フリー水素の製造を目指しています。私たちは最初から水素製造を目指していたわけではありませんが、より高効率で環境負荷の低い石炭火力発電を追求していく中で、水素製造に辿りつきました<図1>」(千葉氏)


<図1>J-POWERが目指す石炭からのCO2フリー水素製造(提供:J-POWER)

 

 

CO2フリー水素製造の基礎技術は、CO2排出量を低減する酸素吹石炭ガス化技術と、化学吸収法と物理吸収法によるCO2分離・回収技術

CO2フリー水素製造の基礎技術が生まれたのが、2002年からスタートした多目的石炭ガス製造技術の開発「EAGLEプロジェクト」です。J-POWERの若松研究所(北九州市)で、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)との共同研究事業として実施されました。<写真1>

<写真1>J-POWER若松研究所の「多目的石炭ガス製造技術開発」(EAGLEプロジェクト:Coal Energy Application for Gas,Liquid&Electricity)のパイロットプラント(提供:J-POWER)
<写真1>J-POWER若松研究所の「多目的石炭ガス製造技術開発」(EAGLEプロジェクト:Coal Energy Application for Gas,Liquid&Electricity)のパイロットプラント(提供:J-POWER)


EAGLEプロジェクトでは、石炭の高効率利用とCO2の排出量削減を目指し、3つのステップを通じてさまざまな技術の検証を実施。ステップ1では、酸素吹石炭ガス化技術において、石炭をガス化し、発電効率を向上させ、単位発電量あたりのCO2排出量を低減させました。そしてステップ2・3では、発電システムからCO2を効率的に分離回収する実証実験を進めていきました。

このCO2分離・回収において、J-POWERは独自の化学吸収法と物理吸収法という2つの回収設備を併設しました。

「ガス化技術に関しては、石炭粒子に旋回流を加えて、石炭粒子の炉内滞留時間を長くしガス化反応を促進することで、高いガス化効率を得ました。また、ガス化部に上下2段の石炭バーナを配置し、上下の酸素供給量を適切に制御することで、高いガス化効率とスラグ安定排出の双方を実現しています<図2>」(中西氏)


<図2>EAGLE炉の仕組み。石炭に酸素を混ぜて旋回流を加え、H2とCOに分離する(提供:J-POWER)

 

 

CO2フリー水素を国内で製造し、発電の商用化を目指す「大崎クールジェンプロジェクト」

CO2フリー水素を国内で製造し、発電の商用化を目指す取組みが始まりました。EAGLEプロジェクトで培った研究開発技術をもとに、石炭からの水素製造・発電利用するシステムの商用化に向けて、NEDOの助成事業として中国電力と共同で、広島県大崎上島町に大崎クールジェン株式会社を設立。「大崎クールジェンプロジェクト」という名のもと、EAGLE炉をスケールアップさせた大型のガス化炉を用いた実証試験を行っています<図3>。

「第1段階の酸素吹IGCC実証試験では水素濃度25%のガス製造に成功し、17万kW級実証プラントとしては世界最高水準となる発電効率51.9%(発電端効率LHVベース)を達成しました」(中西氏)さらに、LNG火力も上回る柔軟な負荷調整能力も実証されており、再生可能エネルギーの急な出力変動にも対応可能な「調整電源」としても期待されます。

そして、第2段階では、CO2分離・回収技術を組み合わせた実証試験を実施。水素濃度85%のガスの製造に成功しています。

現在、第3段階として、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を用いた燃料電池モジュール2台を組み合わせ、CO2分離・回収後の水素リッチガスを供給した燃料電池発電の実証試験に着手しています。


<図3>大崎クールジェンプロジェクトの3つの段階(提供:J-POWER)
<図3>大崎クールジェンプロジェクトの3つの段階(提供:J-POWER)


CO2フリー水素を炭産国で製造し日本に輸送する「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」

<写真2>J-POWERラトローブバレーサイト(豪州ビクトリア州)の褐炭ガス化・水素精製実証設備は、2021年1月に水素製造を開始し、同2月に目標水素純度99.999%を達成。豪州褐炭ガス化・水素精製実証設備(NEDO助成事業/豪州政府補助事業)(提供:J-POWER、J-POWER Latrobe Valley、HySTRA)
<写真2>J-POWERラトローブバレーサイト(豪州ビクトリア州)の褐炭ガス化・水素精製実証設備は、2021年1月に水素製造を開始し、同2月に目標水素純度99.999%を達成。豪州褐炭ガス化・水素精製実証設備(NEDO助成事業/豪州政府補助事業)(提供:J-POWER、J-POWER Latrobe Valley、HySTRA)


CO2フリー水素を産炭国で製造し日本に輸送する方法に関して、J-POWERは豪州の褐炭をガス化して水素を製造し、日本に輸送するサプライチェーン構築の実証試験に取り組んでいます。2016年に設立された、褐炭を有効利用した水素製造、輸送・貯蔵、利用からなるサプライチェーンを構築し、2030年頃の商用化を目指す技術研究組合「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」に参画しています。

「CO2フリー水素のサプライチェーンを構築するためには、水素製造だけでなく輸送や荷役といった技術を組み合わせる必要があります。それぞれの技術を持つ会社が集まり、強みを生かす形で推進することが重要です。豪州の褐炭をガス化して水素を製造するプロジェクトは、今まで培ってきた当社の石炭ガス化技術が活かせると思いました」(中西氏)

このプロジェクトは、豪州南東部のビクトリア州に豊富にある石炭の一種「褐炭」から水素を製造する、というものです<写真2>。褐炭は石炭の中でも水分量が50〜60%と多く、乾燥させると自然発火しやすいので長距離の輸送にも適していません。そのため、輸出できず、現地の発電など小規模でしか利用されていませんでした。


「褐炭のガス化は基本的なデータがなく、実証試験には多くの困難がありましたが、試運転調整の末、最終的には純度99.999%の水素を製造することに成功しました。将来的には、同じく豪州で計画されているCO2の回収・貯留(CCS)プロジェクトと連携することで、『CO2フリー水素』サプライチェーンの商用化を目指しています」(中西氏)

この「CCS」に関しても、J-POWERは日本CCS調査株式会社が実施する北海道苫小牧での大規模な実証試験に参画し、知見を獲得してきました。現在、インドネシアでガス田でのCCS実証プロジェクトの事業化を目指した調査も開始しています。また、CO2の有効利用(カーボンリサイクル)も研究しており、これらの技術により「CO2フリー水素」の実現を目指しています。

「これまでの国内外の実証試験で得た知見、CO2の貯留・有効利用技術を組み合わせることで、J-POWERはCO2排出量実質ゼロの水素製造・水素発電の実現に挑戦していきます。さらに、植物由来のバイオマスを混ぜてガス化すれば、植物が吸収していた大気中のCO2も削減、実質的にカーボンマイナス(ネガティブエミッション)を達成できる。これは同じ固体の石炭であるからこそ可能となるものです」(中西氏)

長年の研究開発を通じて、石炭からの水素製造に必要な酸素吹石炭ガス化技術、CO2分離・回収技術はすでに商用化の一歩手前まで実現しているJ-POWER。

これらの成果を基に、既存の松島火力発電所(長崎県)にガス化設備などを付加して水素の製造・発電利用を可能にする「GENESIS松島計画」もスタートしています。J-POWERはこうした「アップサイクル」を皮切りに、経済合理的かつ早期に水素社会実現を目指していくとのことです。


文/新國翔大

▽脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用

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