透明太陽電池が拡げる窓ガラスの可能性。世界のCO₂排出低減をめざす

INTERVIEW

日本板硝子ビルディングプロダクツ株式会社
営業本部
プライマリーガラス部 兼 マーケティング部
技術担当部長 清原 康一郎

透明太陽電池とは、既存の太陽電池が約400〜1,200nmの波長の可視光線を含む光を吸収して発電するのに対し、可視光線の多くは透過させ、可視光線外にある赤外線(IR)と紫外線(UV)を使って発電するため透明に見える太陽電池です。透明太陽電池の基礎技術を開発した米国のスタートアップ企業ユビキタスエナジーは、透明な窓ガラスでの太陽光発電の研究開発を進めており、その重要なパートナーを務めているのがガラスメーカーである日本板硝子株式会社(以下、NSG)です。

外光を取り入れながら外気を遮り、建物の中と外を繋ぐ役割を果たす窓ガラス。その歴史は古く、最古の窓ガラスは古代ローマ時代に作られたものだと言われています。日本では、明治維新後にガラスの製造が盛んになり、関東大震災からの復興を機に、一般にも窓ガラスが普及していきました。現代では世界中の住宅やビルのほとんどに窓ガラスが採用されており、人々の快適な暮らしに貢献しています。窓ガラスは熱が出入りしやすいという課題はありましたが、近年は、複層ガラスやエコガラスなど断熱・遮熱性能をもたせた窓ガラスも開発されてきました。しかし、窓に当たる太陽エネルギーを生かして発電するという発想はなかったのではないでしょうか。

ユビキタスエナジーとNSGが共同開発を進める透明太陽電池「UEPower」とはどのようなものなのか、この技術が実用化されればどのようなことが起きるのか。今回は、日本板硝子ビルディングプロダクツ株式会社 営業本部 プライマリーガラス部 兼 マーケティング部 技術担当部長の清原康一郎(きよはら・こういちろう)氏に、透明太陽電池が拡げる窓ガラスの可能性についてお話を伺いました。

 

透明太陽電池は、可視外の紫外線と赤外線を電気エネルギーに変換して発電を行う

<写真1>透明太陽電池UEPowerのサンプル
<写真1>透明太陽電池UEPowerのサンプル


NSGの本社を訪ねると、「こちらが透明太陽電池の『UEPower』を使った窓ガラスです」と、早速、清原氏に金属製の枠にはめ込まれた窓ガラスを手渡されました。見た目はいたって普通の複層ガラスです。ビルの外に見える景色を透かして見ると、若干黄色味がかっているように感じますが、ほとんど透明です。しかし、驚くべきことに、このいたって普通に見える窓ガラスが、太陽光を受けて電気を生み出すというのです。<写真1>

「透明太陽電池の基本的な仕組みは、すでに普及している太陽電池と同じです。特殊な材料(光電変換素子)を使うことで、太陽光を電気エネルギーに変換して発電を行なっています。ただし使用する太陽光の波長が違います。既存の太陽電池が約400〜1,200nmの波長の可視光線を含む光を吸収して発電するのに対し、透明太陽電池は可視光線の多くは透過させ(可視光透過率40〜80%)、可視光線外にある赤外線(IR)と紫外線(UV)を使って発電しています。既存技術は不透明になることを避けられませんでしたが、この製品は目に見えない太陽光で発電することで、透明な太陽電池を実現したのです」(清原氏)

発電した電気は、屋根に設置するタイプの太陽光発電と同様に、「HEMS(Home Energy Management System)」などに接続して自家消費することが想定され、電気代の削減に繋がります。


透明太陽電池UEPowerは、Low-Eガラスの薄膜成形技術を転用

<図1>透明太陽電池のUEPowerはCVD技術、スパッタリング成膜技術によりガラス面に電極、光電変換素子をコーティングする(提供:日本板硝子)
<図1>透明太陽電池のUEPowerはCVD技術、スパッタリング成膜技術によりガラス面に電極、光電変換素子をコーティングする(提供:日本板硝子)


透明太陽電池の基礎技術は、マサチューセッツ工科大学で発明され、2011年に大学発ベンチャーとしてユビキタスエナジーが立ち上げられました。ガラスの量産メーカーであり、ガラス表面の薄膜成形技術を持つNSGとの共同開発は、2019年にスタートしています。透明太陽電池は透明な電極と透明な光電変換素子をガラスにコーティングすることで製造されますが、そこにNSGの技術力が生かされていると清原氏は言います。

「当社では、高い断熱・遮熱性能を持った『Low-Eガラス』を製造しています。一般的にエコガラスとも言われているもので、ガラスの表面に特殊な金属膜のコーティングをほどこすことで、可視光を透過しながらも窓ガラスの断熱・遮熱性を向上させて、冷暖房の効率を上げたものです。このLow-Eガラスを複層にしてさらに断熱性能を高めた商品を販売しています。その薄膜を作る技術が、UEPower独自の光電変換素子による薄膜の形成に生かされています。UEPowerは、Low-Eガラスとほぼ同じ製造工程で作ることができるのです。

具体的には、CVD技術とスパッタリング成膜技術という手法を使います。簡単に説明すると、NSGでは、CVD技術を使用し透明な電極(NSG TEC)をガラス上にコーティングします。通常のガラスは電気を通しませんから、光電変換素子で生まれた電気をNSG TECを介し取り出すことになります<図1>。光電変換素子は、ユビキタスエナジーの技術でNSG TECにスパッタリングで成膜を行います。NSGのガラスへの透明な電極のコーティング技術は、世界でもトップレベル。それが、ユビキタスエナジーが当社をパートナーに選んだ大きな理由だと考えています」(清原氏)

透明太陽電池の窓ガラスは、可視光を通すのに熱を通しにくく、紫外線も通しにくい

<写真2>千葉県で行われている透明太陽電池UEPowerの窓ガラス(右)と透明複層ガラス(左)の比較実験(提供:日本板硝子)
<写真2>千葉県で行われている透明太陽電池UEPowerの窓ガラス(右)と透明複層ガラス(左)の比較実験(提供:日本板硝子)


NSGは現在、ユビキタスエナジーに出資しているENEOSホールディングス株式会社(以下、ENEOS)と共同で1年間の実証実験をNSGの千葉事業所内(千葉県市原市)に実験用のハウスを建設し行っています。<写真2>

「UEPowerは、太陽電池として発電するほかに、従来のLow-Eガラスと同様に遮熱、断熱性能を持ち合わせます。アメリカでは、先行してNSGの研究センター内(オハイオ州)で発電量を測定する実証実験は行われていますが、それにより室内が実際にどれほど省エネになるのかといった実験までは行われていません。日本では、発電量を確認するとともに、遮熱・断熱性能についても分析を行なうことにしました」(清原氏)

2021年9月にスタートした実証実験では、窓にUEPowerをつけたハウスと、普通の複層ガラスをつけたハウスに、エアコンをつけて室内を夏季は20℃、冬季は25℃に保った状態で、エアコンにどれくらいのコスト(電力消費量)がかかるのかを年間を通じて調査しています。

「まだ実験中ですが、今のところ、夏季の冷房時には、外からの日射熱をカットする遮熱効果により、通常の窓ガラスに比べて日中の電力消費量が大きく下がることが確認されています。また、冬季の暖房時には、室内から熱を逃がさない断熱効果で暖房効率も上がることも確認できつつあります。期待通りに創エネ、省エネができております」(清原氏)

さらに、紫外線を電気に変えるため、90%以上の高いUVカット効果も備えています。肌や目にも優しく、室内にあるものの退色(色あせ)も防ぐガラスだと言えます。

光を通すのに熱を通しにくく、紫外線も通しにくいという性質は、いろいろなところでの活用が期待されます。例えば考えられるのは、駅やホテル、スポーツ施設、病院などのガラス張りの天井です。ガラス張りの天井は明るく開放感があるのは非常に良いのですが、夏場の日中は直射日光が強すぎて温室状態になってしまう(空調費用が膨大にかかる)、冬場はかなり冷えるといった問題や、紫外線によりいろいろなものが退色・劣化してしまうという問題がありました。そうした問題がクリアされる可能性がある上、屋根に設置すれば窓よりも発電効率が高いというメリットもあります。

透明太陽電池の窓ガラスが世界に普及すれば、世界のCO2排出の10%程度を削減と予想

UEPowerのサンプルをよく見ると、何本もの薄い線がスリット状に入っているのがわかります。これは、コーティングした素子を分割することにより、太陽電池を直列に繋いだ状態にすることで電圧を上げるための構造。こうした工夫を盛り込むことで発電効率の向上を目指しているのです。現在の「UEPower」の発電効率は2.5〜3%で、目標としている数値には至っていません(シリコン系太陽電池の発電効率はおおよそ20%程度)。しかし、ユビキタスエナジーの実験室では、小サンプルでは10%程度の発電効率を実現しています。実際の窓に使われるサイズのガラスで同等の発電効率を出すために、現在研究開発を進めています。

実証実験を進めつつ、発電効率の向上を図っているNSGとENEOSは、共同で本格的な実用化を視野に入れながら、新たなマーケットの開拓にも力を入れています。

「『UEPower』を採用した窓ガラスは、販売価格は従来品の窓ガラスより高価になるだろうと予想しています。しかし、実際に建物に採用した場合の経済効果(発電と省エネによる電気料金の軽減効果)は、その投資分を十分に上回るものと期待しています。さらに、地球環境に対する負荷の軽減効果は大きいと考えています。現在、世界全体では毎年200億平方フィート(約18.6億平方メートル)以上の窓が設置されていますが、それが目標の性能に達したUEPowerにすべて置き換わると、最終的には世界のCO2排出の10%程度を削減できると予想しています。実用化当初は、個別住宅や公共建築などで導入実績を重ねる予定です。他にも、自動車や電車、高速道路の防音壁、農業用の温室など、メリットが得られる新たな使い道を探っています。また、並行して、実証実験データをもとにマーケティングを行うことで、この技術を受け入れる素地がどの程度あるのかを調査しています」(清原氏)

量産化技術を確立し、市場導入を開始するのは2024年を予定しているとのこと。それまでに発電効率を向上させるとともに、ガラスのサイズの大型化も実現しようとしています。大型化するとガラス表面をコーティングした素子が均一になりにくく、実現にはまだ開発課題があるといいますが、大型化は可能だと清原氏は断言します。現在のところ、UEPowerの最大サイズは、355×508mm。早い実用化が期待されます。


文/高須賀哲
写真/嶺竜一


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