コンクリートの再利用をめざす、パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理とは〜熊本大学が研究開発を進める「パルスパワー」(後編)

INTERVIEW

熊本大学
産業ナノマテリアル研究所
准教授 浪平 隆男

熊本大学が研究開発を進める「パルスパワー」を紹介する本連載。熊本大学が研究開発を進める「パルスパワー」はアニサキスの殺虫だけでなく、コンクリートの減容化にも使われています。コンクリートの減容化とは、コンクリートを構成する「骨材」と「セメント」を破砕・分解することで廃棄物などの容積を減少させることです。高精度な減容化が実現できれば品質の高い再生骨材を生産できるため、最終処分材(産廃物)の削減にも寄与し、コンクリートの再利用、すなわちリサイクルにも貢献することが期待できます。後編では、前編に引き続き熊本大学の浪平准教授氏に、パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理技術についてお伺いします。

コンクリートの再利用は、コンクリートの廃棄物問題と資源問題の対策として注目されている

コンクリートガラ(左)と、パルス放電によってリサイクルした砂利(右)
コンクリートガラ(左)と、パルス放電によってリサイクルした砂利(右)


高度経済成長期に多く建設された橋や下水管やトンネルなどのインフラや、ビルやマンションなどのコンクリート建造物が更新期を迎えようとしています。鉄筋コンクリート造の住宅の法定耐用年数は47年ですが、実際にはそれより長く使用されているコンクリート建造物は多数あります。
耐用年数を超えたコンクリート建造物は建て替えが必要となります。既存の建造物を取り壊す際には、大量のコンクリートガラが発生します。一方で、新たな建造物の建設の際には、新しいコンクリートが必要になります。

コンクリートは、セメントと骨材(砂利、砂)、水を混ぜて作ります。コンクリートのメインの素材は骨材であり、セメントは接着剤の役割をして、水分が抜けると固まります。セメントは石灰石を焼成して作られ、骨材である砂利や砂は主に山などにある岩や石を砕いて作られますが、骨材は無限にあるわけではありません。採掘のしすぎで良質な骨材は減少しており、環境保全の観点から骨材の確保も難しくなっている状況です。

そこで、コンクリートの廃棄物問題と資源問題の対策として、コンクリートの再利用、すなわちリサイクルを推進することが求められています。コンクリートガラを回収し、粉砕して、セメントのかすと骨材を分離し、骨材を再生骨材として再利用するのです。


コンクリートの再利用における課題は、再生骨材の品質および製造コスト

コンクリートの再利用で用いられる高度再生処理技術としては、機械的処理方法があります。例えば、「機械すりもみ法」や「加熱すりもみ法」が実用化されています。ただ、これらの技術では、コンクリート塊を機械的に破砕するため、コンクリート内部の骨材自体が破砕されてしまい、回収される再生骨材は小さく、角がとれたような状態になります。結果、コンクリート打込み時においてセメントとの付着性能が低下し、強度が落ちることが懸念されます。

「セメントと骨材が綺麗に分離されておらず、表面にセメントかすが付着している場合、品質が低くなってしまいます。具体的には、吸水量が高くなってしまい、乾燥収縮作用、凍結融解抵抗性などに影響を与えるとともに、コンクリート打込み時の水量調整が困難になってしまいます」(浪平氏)

さらに、コンクリートの再利用における再生骨材生産時の問題として、微粒分もあります。この微粒分は二次廃棄物となるため、再生骨材の製造コストをより増加させる要因となってしまうと同時に、微粒分の処理を誤ると廃棄物から廃棄物を発生させてしまう可能性があるのです。

このように、再生骨材の品質、および製造コストの面から、コンクリートの再利用は、ほとんど道路の路盤材としてしか使われておらず、建造物への再利用は現状ではまだあまり進んでいません。しかし今後の日本においては路盤材の需要はさほど多くなく、今後は建造物用の材料としての再利用が期待されます。


熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授
熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授


パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理は、水中でのパルス放電による固体破砕現象を利用し効率よくコンクリートを破砕、基準を満たす再生骨材を回収可能

パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理では、容器内にコンクリートと水を入れ、パルスを発生させて破砕する
パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理では、容器内にコンクリートと水を入れ、パルスを発生させて破砕する


パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理では、パルスパワーを利用した制御にてコンクリート塊を破壊し、骨材を分離回収します。具体的なメカニズムは、水中でのパルス放電による固体破砕現象により、固体・液体・気体それぞれの絶縁破壊強度の違いを使って、破砕対象である固体内に絶縁破壊を発生させ、コンクリートの破砕を促すというものです。

「水中に置いたコンクリートに高電圧パルス放電が印加されると、コンクリート中に存在する空隙内の空気が先に絶縁破壊を起こします。この現象が引き金となり、コンクリート全体に絶縁破壊が起こり、大電流が流れるのです」(浪平氏)

コンクリート内の空隙中の空気が急激に温度上昇してプラズマ状態となり、急激な体積膨張を引き起こします。さらに、体積膨張圧によって衝撃波が発生。この衝撃波はコンクリート中を伝播し、コンクリート表面やコンクリート中の骨材、セメントペースト硬化体、空隙、モルタルと粗骨材の境界面で透過、反射、屈折を繰り返して散乱減衰します。

このとき衝撃波は境界面においてエネルギーを放出し、特に機械的物性の異なるモルタルと粗骨材間およびセメントペーストと細骨材間においては引張力が発生するため、両者の剥離を促します。

「押しつぶすのではなく、剥がしていくイメージです。そのため、1ピースを見てみても、石としては削られてなく、セメントペーストが剥がされている状態になり、品質の高いものを高純度でリサイクルすることができます」(浪平氏)

水槽中に放電電極を設置し、その中で水中パルス放電によってコンクリートを破砕していくと、放電回数を増やすにしたがって、順調に破砕されていきます。放電を100回繰り返すと、骨材表面には付着物はなく、形状はもとの砕石のように角ばった状態になります。

また、浪平准教授によれば、パルスパワー1回あたりの放電において、10マイクロ秒間に6.4kJ相当のエネルギーが放出されるように設定すると、効率よくコンクリートを破砕でき、基準を満たす再生骨材を回収することができるとのことです。

「放電エネルギー量や放電回数を変化させれば、任意の品質を持った再生骨材を製造できます。コンクリートの破砕を簡単に制御できるのも、この技術の特徴です」(浪平氏)

すでに熊本大学産業ナノマテリアル研究所は、「水中パルス放電法骨材高度再生処理機」と呼ばれる実規模級のプラントを試作しています。

具体的な仕組みは、ホッパーによって計量されたコンクリート塊がベルトコンベアによって金網電極に投入されると水槽に搬送され、高電圧電極直下で静止します。そして、高電圧電極が金網電極カゴに挿入されると所定の回数の水中パルス放電が行われ、コンクリート塊は金網電極内で破砕され、再生粗骨材として回収されます。一方の金網の目開きより小さなものは水槽底より再生細骨材として回収されるというものです。

1回当たりの放電エネルギー量を6.4kJとして100回放電するとします。その場合、1つの金網電極カゴにつき、総消費エネルギー量640kJの放電を行うのですが、試作プラントでは1日当たり1トンのコンクリート塊を処理することができ、その電力料金は2千円程度(税込27円/kWh)となる試算とのことです。


パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理は、放射能汚染コンクリート瓦礫のリサイクルにも

パルスパワーによるコンクリート塊の骨材再生処理は、高い線量を有する放射性物質によって汚染されたコンクリートの減容化へ活用も期待されています。

2011年3月11日に発生した東日本大震災により、福島第一原子力発電所では水素爆発が起き、大量のコンクリート瓦礫が発生しました。高い線量を有する汚染されたコンクリート瓦礫は発電所敷地内などで仮置きされている状態にあり、これらの汚染コンクリート瓦礫の処理処分は喫緊の課題となっています。放射性廃棄物の処分費用は高額であることに加え、処分するための処理施設は現在建設されていません。原子力施設による放射性廃棄物は一時的に中間貯蔵施設に貯蔵されている状態にあり、当然ですがこれらの施設の容量にも限界があります。

「放射性物質によって汚染したコンクリートの除染は、建物の床面や壁面といった比較的広くて平滑な面に対してはウォータージェットによって汚染面をそぎ落とす方法が有効ですが、側溝や側溝蓋、集水桝、コンクリート瓦礫などの汚染部位は平面であるとは限らず、複雑な形状かつさまざまな寸法をもっています。

これらを同様の方法で除染するのは、作業性、効率性の面からも困難です。また、発生する処理水や微粉末の流出を管理する必要もあり、現地におけるそぎ落とす作業は困難。そこで活用できるのが、パルス放電法によるコンクリート破砕法です」(浪平氏)

一般的なコンクリート中に粗骨材の占める体積は最も大きく、放射性物質を含んだモルタルを粗骨材から剥脱させて粗骨材だけを分離回収すれば、放射性廃棄物として最終処分すべきコンクリートが40%程度は減容化できる、と考えているそうです。

まだ実用化には至っていませんが、環境配慮の面からもパルス放電法によるコンクリート破砕法の需要は今後高まっていきそうです。


文/新國翔大
撮影/嶺竜一



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