LNGの冷熱利用で注目されるFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)とは

INTERVIEW

株式会社 商船三井
海洋技術部
近藤 良和 中山 真実
ガス・海洋事業部
岡 恭平

LNG(液化天然ガス)は、天然ガスを超低温で冷却し無色透明な液体としたものです。液化の際に体積の600分の1となる特徴を活かし、大量のLNGがLNGタンカーにより海上輸送されています。LNGは蒸発して天然ガスに戻る(再ガス化)の際に、周囲から熱を奪い冷却する現象「冷熱」が生じます。この冷熱利用で注目されているFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)です。FSRUは、洋上でLNGを受け入れてタンクに貯蔵し、必要に応じてLNGを温めて再ガス化した高圧ガスを陸上パイプラインに送出する浮体式設備です。

今回は、LNG導入の低コスト、短期間での実現を目指すFSRUプロジェクトを手掛ける株式会社商船三井 海洋技術部の近藤良和(こんどう・よしかず)部長、同部の中山真実(なかやま・まさみ)FSRUプロジェクトチームリーダー、ガス・海洋事業部 FSRU第一チーム(取材当時)の岡恭平(おか・きょうへい)コーディネーターにお話を伺いました。

FSRUは、海上に浮かんだ再ガス化設備。導入のしやすさから新興国での導入が進む。

LNGタンカー(右)からLNGを受け入れて再ガス化を行うFSRU(左)(提供:商船三井)
LNGタンカー(右)からLNGを受け入れて再ガス化を行うFSRU(左)(提供:商船三井)


火力発電の原料として使われているほか、近年は都市ガス利用の広まりも相まり、日本においても重要なエネルギー源となっているLNG。しかし、国内での採取量は少なく、アジア、ヨーロッパ、北米などからの輸入に頼っています。現在、LNGの輸入量は中国に次いで世界2位の規模となっているほどです。

天然ガスは液化すると、元の体積の600分の1になるため、マイナス162℃以下の超低温で液体化され、LNGとして輸送されています。海外では長いパイプラインを引いて送られることが多いですが、日本を含めたアジア地域ではLNGとして船舶で輸送されることが主流となっています。

輸送船はタンカーの腹部に巨大な魔法瓶のようなものを載せた構造となっており、その中にLNGを充填します。船で運ばれたLNGは臨海部の基地で海水を利用して温め再ガス化し、エネルギーとして利用するのです。1隻のタンカーが輸送できるLNG量は約7〜12万トン程度ですが、このLNGで一般家庭約5,000万世帯が1日に使う電気を作り出すことができます。

LNGを輸入する際、臨海部に陸上のLNG基地を建設する必要がありますが、一定のコストがかかってしまいます。そこで商船三井が提案しているのがFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)です。

FSRUとは、分かりやすく説明すると「海上に浮かんだ再ガス化設備」。構造は船そのものであるため、臨海地域に陸上基地を建設するなどの大規模な土地は不要です。

そのため低コスト、かつ短期間で再ガス化設備を導入できます。また、LNG船を基地に寄港させるにはある程度の水深が必要であるため、遠浅な海では陸上基地の建設が難しい問題がありましたが、FSRUであれば沖に設置し、LNG船とのLNGの受け渡しが可能です。

LNGのサプライチェーンにおけるFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)の役割(提供:商船三井)
LNGのサプライチェーンにおけるFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)の役割(提供:商船三井)


「許認可にかかる期間も短いため、エネルギー需要の拡大と並行して、2010年代後半からFSRUを導入する新興国が増えてきました。2017年に竣工したアジア船社初のFSRUを筆頭に、現在世界で40隻ほどのFSRUが稼働しています。今後は香港での長期契約に投入予定のほか、インドネシアやインドでのプロジェクトも始まる予定です」(近藤氏)


LNGの冷熱利用を行うFSRUの課題は、海上ならではの“波による揺れ”

当初、商船三井のFSRUでは、再ガス化システムに海水を直接利用する直接熱交換方式を採用していました。しかし、その後は次世代技術として、グリコール水を中間加熱媒体として利用する「グリコール水間接加熱再ガス化システム」が主流になったのです。

再ガス化技術が革新していく中、エネルギー効率が良く、なおかつ環境にもやさしい技術を追求していった結果、同社が着目したのが極低温状態のものが常温に戻る際の温度差を利用して生み出す「冷熱エネルギー」でした。

「海運業界では2015年頃から船舶のCO2排出量削減技術のひとつとして、主エンジンの掃気冷却で発生する排熱を利用した『バイナリー(温度差)発電システム』の導入検討が出始めていました。そこでLNGの冷熱エネルギーを利用したバイナリー発電ができれば、CO2排出削減が期待できると考え、開発に着手し始めました」(近藤氏)

また、一般的なサイズのFSRUにおいて、LNGの再ガス化によって発生する冷熱エネルギーから期待できる発電量は約4〜5MW(メガワット)もあることが分かりました。

「これは大型の風力発電風車1基分に相当する電力であり、この電力を活用することで再ガス化のプロセスに必要な燃料及びCO2排出量を最大約55%削減することができます。またLNGの陸上受入基地でも昔から冷熱発電が行われていることを知り、これをFSRUにも応用できないかと試行錯誤を始めました」と中山氏は言います。

もともと、冷熱エネルギーによる発電は、陸上のLNG受入基地で40年以上の実績があります。これまでは別の低沸点の熱媒体(有機媒体)に移し、海水の熱で気化した熱媒体の蒸気と温度差を作ることで、タービンを効率良く回して発電する「有機ランキンサイクル」という手法を活用していました。しかし、海上では“波による揺れ”が発生します。

「この揺れによって、タービンを安定的に回すことが難しい。また、船舶に搭載するためには小型化も必須条件となります。いくつかのメーカーにFSRU用のタービン発電機の製造を依頼しましたが、『陸上の技術を海上に転用するのは簡単ではない』と、断られ続けました」(中山氏)

なかなか良い返事が得られない中、船用蒸気タービン発電機を手掛ける三菱重工マリンマシナリ株式会社にノウハウがあることがわかり、商船三井は協力を要請します。
そうして、システムの肝となるタービン発電機の開発パートナーも見つかりました。


FSRUをLNG船として活用することも考慮し、航行時の省エネルギーを実現

再ガス冷熱発電システムのタービン発電機イメージ図(提供:三菱重工マリンマシナリ株式会社)
再ガス冷熱発電システムのタービン発電機イメージ図(提供:三菱重工マリンマシナリ株式会社)


また、再ガス冷熱発電システムを導入するFSRUの造船は、もともと「MOL FSRU Challenger」も納入していた韓国の造船会社DSME(大宇造船海洋)に依頼しました。

「開発にあたって、FSRUをLNG船として活用することも考慮しました。これまでFSRUの主機は再ガス化に必要な電力を賄うため、大容量の発電が可能なDFDE(Dual Fuel Diesel Electric:電気推進システム)を主流としていましたが、最新の2ストロークDF(Dual Fuel)主機採用の推進システムに比べ燃料効率が良くありませんでした」

「ただCPR(再ガス冷熱発電)を適用することで、FSRUとして運転する際に、再ガス化に必要な電力の一部を冷熱発電で賄うことが可能になり、代わりにディーゼル発電機の小型化を実現しました。DFDEよりも燃料効率がよい2ストロークDF主機を搭載でき、その結果、LNG船としての航行する場合においても、省エネルギーを実現できるようになりました」(中山氏)

その後、フランスの第三者機関、船級協会・ビューローベリタスから基本設計承認(AIP)を取得し、安全性を承認され、販売に向けて動き出しています。

「実機をスケールダウンしたテスト用のモジュールを作り、熱交換させて小型のタービンが適切な発電量を出せるかどうかを実際の冷媒で検証し、試行錯誤を繰り返すことで、再ガス冷熱発電システムを開発する目処を立てることができました」(中山氏)

「最大55%のCO2および燃料消費を削減できる技術はなかなかないため、海外の発電事業者やガス事業者からお問合せを多くいただいております。本技術を導入することで環境問題への解決に貢献するとともに、お客様に大きなメリットを提供し市場をリードしていきたいと思っています」(岡氏)

昨今、LNG価格が高騰していることから、再ガス化すればするほど燃料消費の削減幅が広がっていくため、再ガス冷熱発電システム需要は高まっていきそうだ。

インタビューの最後に「弊社は2035年までに2019年比で約45%の温室効果ガス排出削減を達成することを中長期目標に掲げています。再ガス冷熱発電システムにより、FSRU事業で同目標を早期に達成し、今後も本技術が環境問題に大きく貢献していければ」と近藤氏は意気込みました。


文/新國翔大
写真/嶺竜一


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