医師に聞く。バイオセミラックス3Dプリンターによる人工骨の共同研究から見えてきた可能性。〜バイオセミラックス3Dプリンターとは(後編)

INTERVIEW

名古屋大学病院
大山 慎太郎

バイオセミラックス3Dプリンターの研究開発内容を紹介する本連載。バイオセラミックスは、人体に対する毒性がなく、生体組織への親和性が高く、かつ体内において高い耐久性を有する生体機能を代行するセラミックスであり、人工骨や人工関節、歯、歯根などに使われています。2018年、株式会社リコーと理化学研究所は、3Dプリンターを用いた新たな人工骨の造形技術を発表しました。(参考文献1)

後編では、理化学研究所のスタッフとして協力していた名古屋大学病院の整形外科医の大山慎太郎(おおやま・しんたろう)氏に、医師としての共同研究への関わり方や同技術が患者にもたらす価値、およびバイオセミラックス3Dプリンターによる人工骨造形技術の可能性についてお伺いします。

医師としてのバイオセミラックス3Dプリンターによる人工骨の研究開発への関わり方とは

──── 今回の研究チームに参加することになったきっかけを教えてください。

大山氏(以下同):
2007年に名古屋大学医学部を卒業したのですが、私はもともと情報処理を趣味で学んでいました。そこで担当教授と意気投合し、さらに理化学研究所の画像処理研究をしていた横田秀夫(よこた・ひでお)先生とつながりました。

そのときは人工骨をやるとは決まってなかったのですが、医療でも今後利用が増えていくであろう画像処理や3D、AIを使った研究について勉強したいと考え、国内留学で理化学研究所に2013年から行くことになりました。

理化学研究所では、偶然ですが横田チームリーダーが、私が行く数年前に3Dプリンター人工骨の事業を行っていました。そのときは造形精度や強度はまだまだ弱いものでしたが、実用化されていました。私が理化学研究所に赴任してからリコーの渡邉さんに出会い話し合ううち、共同研究をしてリコーの人工骨の技術を融合させれば、造形精度や強度を出すことが可能なのではないかと考えました。そこで3Dプリンターによる人工骨の共同研究を始めることになったのです。

名古屋大学病院整形外科医師の大山慎太郎氏(写真提供:本人)
名古屋大学病院整形外科医師の大山慎太郎氏(写真提供:本人)


──── そのプロジェクトに、整形外科の医師としてどのような役割を果たしていたのか教えていただけますか?

ひとつは現場ニーズの提供ですね。わたしは実際に手術において人工骨材料を使うのですが、どれくらいの大きさが良いかや、どういった使い勝手だと使いやすいか、というニーズを伝えています。あとは角度などの造形精度や、強度の要求精度を出しました。

それから動物実験では実際に動物に埋め込むので、そういったときの手技のプロトコルを作成したりといったこともします。もちろん実際に動物に埋め込む手術を担当したりもしました。


バイオセミラックス3Dプリンターによる人工骨の特徴

──── 動物実験の段階だと思いますが、骨の再生などに関する成果が見られていると思うのですが、いまの成果を先生はどのように見てらっしゃいますか?

動物実験の評価なので、それがそのまま人間で同じ結果が見られるかどうかはわかっていません。でも動物実験では人工骨の中に細胞が入ってくるのが1週目からはっきり見て取れています。いままでは難しかった骨の内部への細胞の侵入っていうことがかなり高速化できたんじゃないかと思います。それは本当に印象的でしたね。まさかこんなに早く入るとは思いませんでした。<図1>


<図1>骨移植(動物実験による)後の骨置換の様子の写真。既存の人工骨(上段)に比べ、新造形法(下段)では人工骨が溶けて本物の骨に置き換わりつつあるのが見て取れる(提供:リコー)
<図1>骨移植(動物実験による)後の骨置換の様子の写真。既存の人工骨(上段)に比べ、新造形法(下段)では人工骨が溶けて本物の骨に置き換わりつつあるのが見て取れる(提供:リコー)


──── この技術が確立できたときに、整形外科などの臨床にどのように役立つかを教えていただけますか?

いまでも整形外科手術においては、骨に欠損が起きたときには、最初の選択肢は自家骨移植です。これは患者さんの骨盤などに穴を開けて、ノミでこんこん叩いて、2〜3cm角のブロックを取り出すんです。それを作業台の上で目的に合ったサイズに切っていきます。

そのときにけっこう飛び散ったりするんですね。オシレーターというドリルで切削するときに飛び散って、感染的にも良くないです。また患者さんも骨盤部からかなりの出血をしますし、負担も大きいです。

そういう意味で、人工骨で自家骨の性能に比類したり上回るようなものができるなら、それが望ましいとみんな思っています。


──── 人工骨でも自家骨の性能を上回れば、というお話ですね。

そうです。自家骨にはとても良い特徴があって、カルシウムの構造がまずある。中にはコラーゲンやタンパク質の構造が配置されています。中には破骨細胞や骨芽細胞などがいるので、体内に入れればすぐ骨になっていくという点ですね。

一方、人工骨は中に細胞がいないので、いかに中に細胞が入るかが肝になります。
そのために200umくらいの孔をうまく配置することによって、その中に細胞が入ってきやすい構造を作ることができます。従来の人工骨も気泡剤を添加し発泡・焼結することで多孔質化することはできていましたが、自在に孔を配置したり、しっかり繋がっていることを担保することはできませんでした。しかし実際にわれわれの人工骨はそうした構造が設計通り作れることがわかり、骨癒合も促進できることがわかったので、自家骨に一歩近づいたという印象です。


──── うまくいけば自家骨を超える性能をもつかもしれないと?

そう思っています。われわれの3Dプリンター造形技術の特徴としては、複合的な材料を印刷できるんです。理論上は骨にコラーゲンや細胞を吹き付けたりすることが可能です。もちろんそれを実現するには、インクを無害なものにしたり、詰まらないようしたりとかの技術的なハードルは越えていかなくてはならないのですが、私はできるのではないかと思っています。


──── 今回のものは、そういった骨置換が起きやすい構造があり、ある程度の期間をおけば骨として置き換わるという点でしょうか?

本来、骨は外側が硬いチューブで、中は海面骨という弱い組織で成り立っています。内側は血流に富んでいて骨の細胞が入りやすいという構造になっています。

ところが従来の人工骨は全部均一です。そのため、骨置換を優先して全体的に海綿骨にしてしまうと、強度はそんなに高くできません。もしくは強度を優先して外側の骨の硬さに合わせてしまうと、中にはなにも入れなくなってしまうんですね。

わたしたちの人工骨は積層プリントができるので、外はガチガチに固めておいて、中は骨の細胞が入りやすいようにすかすかにして造型することができ、理論上は構造的強度を作ることができます。

構造的強度を作れるだけでなく、先ほども言ったように天然骨に比べて置換もしやすいというのが利点になります。


バイオセミラックス3Dプリンターによる人工骨が患者にもたらす価値

<図2>バイオセミラックス3Dプリンターで造形した人工骨のサンプル(提供:リコー)
<図2>バイオセミラックス3Dプリンターで造形した人工骨のサンプル(提供:リコー)


──── 従来の人工骨の技術では解決できなかったものが、この技術によって解決できるようになったという具体例はありますか。

例えば腫瘍のような大きな欠損は、腫瘍の大きさ+3cmくらい大きめに取ります。小さな腫瘍でも関節とか骨とかを取ってしまうことがあります。そうなると例えば欠損が10cmの大きさになったときなど、骨も大きく欠損することになります。これを補填するためにもちろん自家骨移植を行いますが、別の方法には照射骨といって、切除した骨に放射線をあてて骨を戻すこともします。

ただこれは骨の細胞も死んでしまいますし、先ほど言ったように骨には細胞が入りにくいという性質があります。さらに患者の負担も大きいです。

もしここに人工骨が使えるなら、手術で切り取る範囲を設定しておいて、切り取った部分にあらかじめ作っておいた人工骨を入れられたら、と思います。骨の形成も早いですし、手術時間も短くなり、患者さんへの負担も少なくなります。


──── なるほど、患者さんへの負担が少なくなるのですね。

はい、例えば、昔の骨折で腕が曲がってしまうことがあります(変形治癒骨折)。その場合、変形治癒骨折矯正手術といって、骨を切って角度や回旋を戻した後、骨盤から3〜4cmの自家骨を切り出して、間に骨を埋め込むんです。とても角度や長さに関して厳密に行う手術です

昔はオペーレータの勘でおこなっていた部分があり、すごく時間がかかったのです。それを2016年くらいから大阪大学医学部附属病院の整形外科の村瀬剛(むらせ・つよし)先生が、独自に開発したコンピュータプログラムを使って、複雑に曲がった骨を一発で治せるシミュレーションをはじめたんです。

そのシステムのすごいところは、ガイドに沿って骨を切り固定することで正確な矯正手術ができるところです。

ただ、それにしても実際に使う骨は自分で切らなきゃなりません。それも人工骨でできるなら、かなり時間の短縮になりますね。場合によってはいままで6〜7時間かかっていた手術が、1時間で終わるかもしれません。


──── それは時間的に大きく異なりますね。時間や負担が軽減できますね。

自家骨移植はかなり出血します。骨盤を削った方には、血を外に出す管を入れたり、骨ロウっていう骨からの出血を止めたりするものを使ったりするのですが、酷い方だと2週間とか3週間じわじわと出血するんですね。


──── 骨盤から骨を取ることでなにか不具合が起きたりすることはないのですか?

骨盤から取ること自体は特に大きな不具合はないと言われています。ただ取るときに、骨盤の真上を通る神経を傷つけてしまうことがあるのです。それを傷つけてしまうと、太ももの外側がしびれたりとか痛かったりする術後の合併症を起こされる方はいらっしゃいます。

合併症はなくても、やはり骨盤から取った後は痛かったり、歩きにくくなったりして大変だと、患者さんはおっしゃいます。人工骨が使えるなら患者さんの負担は軽くなりますね。


バイオセミラックス3Dプリンターによる人工骨造形技術応用の可能性〜軟骨細胞から珊瑚礁まで

──── 今後これを臨床で使っていくためにはいろいろとクリアしていかなくてはならないハードルもあると思うのですがいかがですか?

まず無毒化については今回の実験でもある程度エビデンスで示すことができています。このあとは臨床試験、人に実際にインプラントしたときに問題なく骨がくっついてくるかなどをCTなど撮って、研究していく必要があります。もちろん性能をあげるという研究を進めながらになりますが。

そういうことをしていきながら、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のどの領域の医療分野として承認してもらうかについて考えていきます。


──── このプロジェクトに参加した先生にとっての到達点とはなんでしょうか?

ひとつは変形矯正の手術ですね。私はいま整形外科の中でも、手の上肢の部分を専門にしています。小さいときに骨折して曲がって治ってしまって、前腕を、掌が下を向くように回転させる回内がうまくできない人がけっこういるのです。

それはなぜかというと、前腕の骨は2つあって、その2つのバランスが良くないと、途中で引っかかって回らなくなってしまうんです。そういった骨は、角度の依存性がすごく高いんです。ただしこの手術は非常に難しいのが現実です。

そういった手術で、技術の依存性を低くすることができます。達人しかできなかったような手術が、達人よりよいクオリティで若い医師でもできるようになる。それがひとつの達成点ですね。


──── この技術が使える用途は、移植用人工骨のほかにもありますか?

たとえば軟骨細胞とかを上に載せることで、軟骨の再生ということもできたらと思っています。

軟骨細胞は、ASC(脂肪由来幹細胞治療)というおなかの脂肪から細胞を採ってきて、それを培養して膝などに注入する方式があるのですが、細胞は気まぐれなので、プレパラートの上では軟骨細胞になっていても、膝の中に入れて定着するかどうかが分からないんです。実際にそこで細胞として定着する場合もあれば、どこかに行ってしまう場合もあるんです。

それを人工骨という土台の上に載せて、しっかり軟骨細胞を培養します。それを軟骨がすれてなくなった膝の穴の中に骨と一緒に入れれば、どこかに行ってしまうこともなくなります。軟骨再生という使い方ができたらいいと思いますね。


──── そういう発展した使い方もあるんですね。

ほかにももっと広い視点で見れば、珊瑚礁の再生にも使えると思います。珊瑚虫も骨の細胞と同じで、狭いすき間に入っていって増えるんです。

珊瑚の形とかを造型しておいて海に入れていくことで、珊瑚虫がいついて作っていけるんじゃないかと思います。たぶん珊瑚虫が一から作るより速いスピードで作れるんじゃないかと。

小さい細胞が入りやすいという点では、珊瑚と人工骨ではリンクするところがあります。足場材料と言うこともあるんですが、こうした構造的な仕組みをもった材料への注目度は非常に高いと思いますね。

医療の現場という側面からいろいろな見方を示してくれた大山先生。最後は人工骨にとどまらない、もっと広い活用方法まで提言してくれました。いずれにしてもこのバイオセミラックス3Dプリンターの発展は、わたしたちの医療に非常に大きな進歩を見せてくれる技術であることはまちがいないでしょう。今後の発展を期待したいと思います。


文/栗山琢宏

▽参考文献
参考文献1:「あなたの骨を作ります -高い強度と骨置換性を持つ人工骨を3Dプリンターで製作する-」 (リコーニュースリリース)、2018年4月

 

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